ピラティスは、何回くらいで効果が出るのですか?
ピラティスの世界では、創始者ジョセフ・ピラティスの言葉として「10回で違いを感じ、20回で見た目が変わり、30回で体のすべてが変わる」という一節が広く知られています。多くのスタジオのコラムでも、この言葉に沿って「10回でこうなる、20回でこうなる」という段階が紹介されています。
一方で、実際の声を見てみると「4回通ってみたけれど、良さが全く分からない」「週何回通えばいいのか分からない」という戸惑いもとても多く見かけます。この落差はどこから来るのでしょうか。
結論から言うと、ピラティスで最初に変わるのは「筋肉の見た目」ではなく「神経」です。そして神経の変化は鏡には映りません。この記事では、なぜ回数が必要なのか、なぜ最初の数回で見た目が変わらないのが自然なのかを、神経学(脳と神経が動きをどう学ぶか)と機能解剖学(体のどこを学び直しているか)の両面から解説します。回数の目安だけでなく、その裏側の仕組みまで分かると、通い方の判断がしやすくなります。
【神経学①】最初の数週間で変わるのは、筋肉ではなく神経
これは運動科学ではよく知られた事実です。トレーニングの専門書では、トレーニングを始めて最初の数週間に起こる力の向上の多くは、筋肉が大きくなったからではなく「神経系の適応」によるものだと説明されています。理由も明快で、筋線維のサイズが増える以上のスピードで、発揮できる力が増えているからです。
体の中では、何が起きているのか
専門書では、神経系が力を高めるやり方として次のような仕組みが挙げられています。
- 運動単位の動員が増える … 筋肉は「運動単位(1本の神経とそれがつなぐ筋線維のまとまり)」という単位で動きます。使える運動単位の数が増える、ということです。
- 発火頻度が上がる … 神経が筋肉に信号を送る回数が増え、より強い収縮を引き出せるようになります。
- 連携が良くなる … 主役の筋肉とその補助をする筋肉の働きが高まり、逆に動きを邪魔する側(拮抗筋)の余計な緊張が減ります。
専門書では、この初期段階の向上を支える要素を「スキル・運動単位の動員・発火頻度の改善」と整理し、筋肉そのものが大きくなる変化(筋肥大)は、その後から効いてくるという関係が図で示されています。つまり順番があるのです。まず神経が変わり、遅れて筋肉が変わる。
だから「数回で見た目が変わらない」のは、失敗ではない
ここが今回いちばんお伝えしたい点です。数回通った段階で鏡を見て変化がなくても、それは効果が出ていないのではなく、変化がまだ神経のレベルで起きている段階だと考えられます。実際、この時期に多くの方が口にするのは見た目の話ではなく、「体が軽い」「呼吸がしやすい」「立っているのが楽」といった感覚の変化です。これは神経が変わり始めているサインだと捉えると、腑に落ちやすくなります。
さらに専門書には、指導者向けにこんな注意書きまで添えられています。初期には大きな向上が出るため本人は喜ぶが、その後の伸びが緩やかになるため失望する可能性がある。だから指導者は、そのあとに起こるゆっくりとした変化の意味を伝える必要がある、というものです。「最初は変化を感じたのに、途中から停滞した気がする」という感覚もまた、想定内の自然な経過だということです。ここを知らないまま止めてしまうのは、とてももったいないと私たちは考えています。
【神経学②】なぜ「回数」が必要なのか ― 脳は誤差を減らしながら覚える
では、なぜ1回や2回では足りず、繰り返しが必要なのでしょうか。脳科学の教科書を読むと、その理由がはっきりします。
体の動かし方は「言葉で覚える記憶」ではない
脳科学では、体の動かし方の記憶を手続き学習(潜在学習)と呼びます。教科書では、この種の学習は何を学んだのかを言葉で説明できないことが多く、意識的に考えなくても実行されるものだと説明されています。そして重要なのが、書字やダンスのような運動技能は、練習を通じた学習によってしか獲得できないと明記されている点です。
つまり、正しい体の使い方は知識として理解しただけでは身につかないのです。「骨盤を立てて」と説明されて頭で分かっても、体が自動的にそうならないのはこのためです。回数が必要なのは根性論ではなく、脳がその種類の記憶を作るのに反復という手続きを要求するからです。
小脳は「誤差」を手がかりに微調整していく
その学習が具体的にどう進むかも、教科書に分かりやすい例があります。頭が動いても視界がぶれないよう眼球を自動調整する反射について、反射のかかり方が不適切だと像がずれるため、そのずれ(誤差)がなくなるまで運動の指令が調整され続けると説明されています。実際、眼鏡をかけると必要な眼球の動き方が変わりますが、体はその新しい条件に合わせて調整をやり直します。そしてこの過程には小脳と脳幹のシナプス伝達の変化が必要で、小脳の特定の部位が働かないとこの調整そのものが起こらないことも示されています。
ここから見えてくるのは、脳の学習は「誤差を検出して、少しずつ修正する」作業の積み重ねだということです。1回のレッスンで得られるのは1回分の修正であり、それを何度も重ねることで、ようやく「意識しなくてもその動きになる」状態に近づいていきます。10回・20回・30回という数字は、この誤差修正の積算だと捉えると納得しやすいはずです。
希望のある話 ― 一度身につくと、忘れにくい
反復が必要という話は少し気の重い響きがありますが、この記憶にはうれしい性質もあります。教科書では、こうした潜在的な学習は長期間保持されると説明されています。自転車の乗り方を何年ぶりでも体が覚えているのと同じです。時間をかけて身につけた体の使い方は、その分だけ失われにくい——これは、続ける価値を裏づける性質だと言えます。
【機能解剖学】ピラティスで学び直しているのは「背骨を一つずつ動かす」こと
では、その反復で具体的に何を学び直しているのでしょうか。ここで機能解剖学の視点が効いてきます。
カパンジーの機能解剖学では、背骨は仙骨(骨盤の中央にある骨)と頭蓋骨の底との間に、24個の可動性のあるパーツが積み重なった構造として説明されています。背骨は1本の棒ではなく、24個の関節の集合体なのです。
1つの関節が動く量は、ほんのわずか
同書には、背骨のねじれについて分節ごとの角度を実測したデータが紹介されています。そこで示されるのは、一つひとつの関節が動く角度はごく小さく、体全体の大きな動きは、その小さな動きが多数積み重なって生まれているという事実です。また、それぞれの椎骨を「てこ」、椎間関節をその支点と見なせること、背骨にかかる圧の逃がし方には椎間板による受動的なものと筋肉による能動的なものの両方があることも整理されています。
「動きすぎる場所」と「動かない場所」ができてしまう
ここが本質です。24個の関節が少しずつ均等に動いてくれれば負担は分散しますが、実際には「ほとんど動かない場所」と「その分だけ動きすぎる場所」に分かれてしまうことが少なくありません。長時間のデスクワークで背中の真ん中が固まると、その足りない分を腰や首が肩代わりします。前の記事でも触れたように、負担は動かない場所ではなく、代わりに働く場所に集まります。
ピラティスで行っている、背骨を一つずつ順番に丸めたり伸ばしたりする動きは、まさにこの24個の関節を個別にコントロールする感覚を取り戻す練習です。これは筋力トレーニングというより、細やかな運動制御の再教育に近い作業です。だからこそ、重さを増やせば早く進むという性質のものではなく、繰り返しの中で神経が学んでいく必要があるのです。体幹や姿勢の仕組みは体幹の弱さのページや猫背・姿勢改善のページでも系統別にまとめています。
マシンピラティスとマットピラティス、変化の早さは違いますか?
よくいただく質問です。どちらが優れているという話ではなく、学習の初期段階においては、誤差を減らしやすいかどうかに違いが出ると考えられます。
マットピラティスは自分の体重だけで行うため、道具がいらず手軽である一方、正しい形が取れないときに、その誤差を自分では気づきにくいという側面があります。腰が反ってしまう、首に力が入るといった代償が起きても、支えがないため修正の手がかりが乏しいのです。
一方マシンピラティス(リフォーマー)では、スプリングやストラップが動きを助ける方向にも、負荷をかける方向にも働きます。フットバーやストラップが手足の位置を物理的に導くため、動きの軌道そのものがガイドされ、ずれに気づきやすくなります。前述のとおり脳の学習が誤差の修正で進むことを踏まえると、正しい動きを正しい形で繰り返しやすい環境は、初期の学習を進めるうえで理にかなっていると言えます。運動が苦手な方や、痛みがあって大きく動けない方でも取り組みやすいのは、この支えがあるためです。
岩槻 整体Re.Lifeでの考え方:回数を無駄にしないために
ここまでの話を踏まえると、当院が整体とマシンピラティスを組み合わせている理由がはっきりします。
関節が動く余地がない状態で反復しても、正しい動きそのものを練習できません。背中が固まったままロールアップを繰り返せば、動かない場所の代わりに、動きすぎる場所をさらに使う練習になってしまいます。それでは回数を重ねても、学習させたいパターンと違うものが積み上がってしまいます。
そこで当院では、まず整体で固まった関節や筋肉をゆるめ、動かせる範囲を確保する。そのうえでマシンピラティスで、正しい動きを反復して神経に覚えてもらうという順番で進めています。整体は「動ける状態をつくる」役割、ピラティスは「その動きを身につける」役割です。1回あたりの練習の質が上がれば、同じ回数でも積み上がるものが変わります。呼吸や胸まわりの硬さが気になる方は呼吸の浅さ・胸郭の硬さのページも参考になります。
なお当院では、回数や期間について過度な期待を持たせるお約束はしていません。変化の出方には個人差があり、もともとの状態・生活習慣・通える頻度によって現実的な見通しは変わります。初回のカウンセリングで今の体の状態を確認したうえで、無理のない進め方を一緒に決めていきます。料金プランはこちらでご確認いただけます。
ピラティスの回数 よくある質問
Q週に何回通うのが良いですか?
目的や体力、生活のリズムによって変わるため、一律の正解はありません。学習という観点では、間隔が空きすぎるより、ある程度の間隔で繰り返せるほうが積み上がりやすいと考えられます。ただし、続かない頻度を設定して途中でやめてしまうより、無理なく継続できる頻度を選ぶほうが結果的に回数を重ねられます。まずは続けられるペースから始めることをおすすめします。
Q10回通っても実感がありません。向いていないのでしょうか?
向き不向きの前に、変化の出方には個人差が大きいことをお伝えしたいです。また、見た目の変化を基準にすると初期はどうしても分かりにくくなります。「以前より呼吸が深い」「夕方の体の重さが違う」といった感覚の変化に目を向けると、進んでいる部分に気づける場合があります。そのうえで変化が乏しいと感じる場合は、動きの内容が体の状態に合っているか、そもそも関節が動く状態になっているかを、一度専門家と確認してみてください。
Qやめたら元に戻ってしまいますか?
体力や筋力の面では、使わなければ徐々に戻る要素があります。一方で、体の動かし方として身についた部分は比較的失われにくいと考えられています。すべてがゼロに戻るというより、身につけた動きの土台は残りやすい、というイメージが実際に近いです。
Qマットピラティスだけでも効果はありますか?
あります。手軽に取り組めることは大きな利点です。ポイントは、正しい形で行えているかどうかです。誤った形で反復すると、その形のほうを覚えてしまう可能性があるため、最初は形を確認できる環境で覚え、慣れてから自宅で行うという組み合わせが安心です。
Q整体だけ、ピラティスだけではだめですか?
どちらか一方でも意味はあります。ただ役割が違い、整体は動ける状態をつくること、ピラティスはその動きを身につけることを担っています。戻りやすさが気になる方や、固さが強い方は、組み合わせるほうが遠回りを避けやすいと考えています。
こんな方は医療機関への相談も検討してください
強い痛みやしびれがある、安静にしていても痛みが続く、運動中に痛みが強まるといった場合は、整体や運動の前に医療機関での確認をおすすめします。当院では特定の疾患の診断・治療は行っておりません。
まとめ
- 「10回・20回・30回の法則」は創始者の言葉として広く知られているが、大切なのはその裏側にある仕組み
- 【神経学】トレーニング初期の変化の多くは筋肥大ではなく神経系の適応(運動単位の動員・発火頻度・スキル)。だから数回で見た目が変わらないのは自然で、感覚の変化が先に現れる
- 【神経学】体の動かし方は手続き学習であり、練習を通じてしか獲得できない。脳は誤差を検出して修正する作業を積み重ねるため、回数が必要になる。一方で一度身につくと忘れにくい
- 【機能解剖学】背骨は24個の可動パーツの集合体。一つずつをコントロールする感覚を取り戻すのがピラティスの本質で、これは筋力よりも運動制御の再教育に近い
- 関節が動かない状態で反復しても正しい練習にならないため、整体で動ける状態をつくってから反復すると、同じ回数でも積み上がるものが変わる
「何回通えばいいのか」「続けて意味があるのか」と迷っている方は、まず今の体がどこまで動く状態にあるかを確認するところから始めてみませんか。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状の診断・治療を保証するものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関へのご相談をおすすめします。