低気圧が近づくと頭が痛くなるのは、なぜですか?
「台風が近づくと決まって頭が痛くなる」「天気が崩れる前日から、だるくて何もできない」——8月末から9月にかけて、岩槻・東岩槻でもこうしたご相談が増える時期です。今年も台風シーズンに入り、気圧の変動が大きい日が続いています。
調べてみると、どのサイトにもほぼ同じ説明が書かれています。「内耳が気圧の変化を感じ取り、その情報が脳に伝わって自律神経が乱れるため」。そして対策として挙がるのは、耳のマッサージ、耳を温めること、気圧予報アプリで備えること。
この説明自体は間違っていません。ただ、実際に耳のマッサージを続けてみて「あまり変わらなかった」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、その一歩先の話をします。結論から言うと、内耳が受け取った情報は、単独で処理されているわけではありません。首からの情報、目からの情報と突き合わせたうえで、脳は「今、自分の頭がどうなっているか」を判断しています。そして首は、体のなかで飛び抜けてセンサー密度の高い場所です。
気圧そのものは変えられません。しかし、この「突き合わせ」の精度に関わる部分は、変えられる余地があります。そこが、整体院としてお伝えできる視点です。
【はじめに】頭痛で、先に医療機関を受診してほしい場合
本題の前に、安全に関わる話をさせてください。頭痛には、体の使い方とはまったく別の背景が関わっていることがあります。次のような場合は、天気のせいと考えずに、まず医療機関を受診してください。
- これまで経験したことのない、突然の激しい頭痛
- だんだん強くなっていく頭痛、頻度が明らかに増えている頭痛
- 発熱、嘔吐、首が硬くて曲がらない感じを伴う
- 手足のしびれ・力が入らない、ろれつが回らない、物が二重に見える
- 意識がぼんやりする、言葉が出にくい
- 頭を打ったあとに出てきた頭痛
また、そもそも「気象病」「天気痛」は正式な診断名ではありません。天気の変化に伴って不調が出る状態をまとめて呼んでいる一般的な言い方です。市販薬を飲む日が増えている、生活に支障が出ているという場合も、一度医療機関で相談されることをおすすめします。当院でも、そうした様子がある方には受診を先にお願いしています。
【神経学①】気圧を感じ取るのは内耳。でも、内耳だけでは決まらない
前庭は「頭の傾き」と「回転」を感じ取るセンサー
耳の奥には、音を聞くための蝸牛とは別に、前庭と呼ばれる器官があります。ここが体のバランス感覚を担当しています。
『カンデル神経科学』によれば、前庭には役割の違う2種類のセンサーがあります。ひとつが半規管で、頭が回転するときの角加速度——つまり「回った」という情報を感知します。もうひとつが耳石器で、こちらは直線的な加速度と、頭の傾きを感知します。頭が傾くと、耳石という細かい粒にかかる重力の向きが変わり、それがセンサーの毛を曲げることで信号になる、という仕組みです。
気圧の変化がこの前庭に影響するのではないか、と考えられているわけです。ここまでは、他のサイトに書かれている説明と同じです。
前庭からの信号は、首と目の情報と突き合わされている
ここからが本題です。
前庭で受け取った信号は、脳幹にある前庭神経核という中継地点に送られます。そしてこの前庭神経核について、教科書には見出しレベルではっきりとこう書かれています。前庭神経核は、前庭系・視覚系・固有感覚系・運動系からの信号を統合する、と。
ここでいう固有感覚とは、関節の角度や筋肉の張り具合から「体の各部分が今どこにあるか」を知らせる感覚のことです。実際、前庭神経核に入ってくる情報には、脊髄の固有感覚の受容器から届くものや、複数の感覚を扱う大脳皮質の領域から届くものが含まれると記載されています。
つまり、脳は「内耳がこう言っている」だけで頭の状態を判断していません。「内耳はこう言っている。首の関節と筋肉はこう言っている。目はこう見えている」——この3つを突き合わせて、はじめて「今、頭はこの向きで、こう動いている」という結論を出しているわけです。
3つの情報が一致していれば、脳は迷いません。しかし、どれかがあいまいだったり、他とズレた情報を出していたりすると、突き合わせがうまくいかなくなります。
【神経学②】内耳と首は、一本の回路でつながっている
前庭からの指令は、首の筋肉に下りていく
関係は一方通行ではありません。
同じ章には、前庭神経核から出ていく経路についても書かれています。そのひとつが内側前庭脊髄路で、これは脊髄を下って首のあたり(頸髄)まで届き、首の筋肉を制御します。さらにこの経路の一部は、眼球運動をつかさどる神経核にも投射していて、目と頭を協調させて動かす役割を担っているとされています。
整理すると、こうです。首の情報は内耳の情報と一緒に処理され、内耳からの指令は首の筋肉に返っていく。内耳と首は、神経の回路としてつながった一組だということになります。
耳のマッサージだけを続けても変化が乏しい方がいらっしゃるのは、この回路の「首」の側が置き去りになっているからかもしれない、と考えています。
目を動かすと、首の奥の筋肉が反応する
この結びつきは、ご自分で確かめることもできます。
『アナトミートレイン』には、こんな確認方法が紹介されています。両手で頭を包むように持ち、親指を後頭部の出っ張りのすぐ下——髪の生え際あたりの深いところに当てます。そのまま頭は動かさずに、目だけを左右にゆっくり動かしてみてください。
親指の下で、筋肉の張りがわずかに変化するのが感じられるはずです。頭はまったく動いていないのに、です。同書では、これらの筋肉を動かさずに目を動かそうとしても、ほぼ不可能であると説明されています。
猫が高いところから落ちても足から着地できるのも、同じ仕組みだとされています。猫は空中で、まず目と内耳を使って頭を水平に保ちます。すると首の奥の筋肉に一定の張りが生まれ、脳がその張りの情報を読み取って、背骨から全身の姿勢を立て直す指令を出す——という順番です。
ここで重要なのは、目・内耳・首の奥の筋肉が、ひとつのセットとして働いているという点です。
【機能解剖学】首は、体のなかで最も「センサー密度」が高い場所
後頭下筋は、お尻の筋肉の約50倍のセンサーを持つ
では、なぜ首がそこまで重要なポジションを占めているのでしょうか。数字を見ると腑に落ちます。
首の付け根の深いところには、後頭下筋群という小さな筋肉のグループがあります。頭蓋骨と、第1頸椎・第2頸椎のあいだをつなぐ、ごく短い筋肉たちです。
この筋肉には、筋肉の伸び具合を感知するセンサー(筋紡錘)が、筋組織1gあたり約36個あると報告されています。比較のために挙げると、お尻の大きな筋肉(大殿筋)では1gあたり0.7個です。同書はこれを踏まえて、後頭下筋は殿筋のおよそ50倍「賢い」と表現しています。
つまり後頭下筋群は、力を出すための筋肉というより、頭の位置を精密に測るためのセンサーの塊だということです。脳が「首はこう言っている」と受け取っている情報の多くは、ここから来ています。
ところが、この部分はデスクワークやスマートフォンで頭が前に出た姿勢が続くと、縮こまったまま固まりやすい場所でもあります。同書には、首をゆるめて長さを調節することが、肩甲骨や背中の下部、さらには股関節にまで及ぶ問題に対処する鍵になるとも書かれています。首の状態は、首だけの問題では終わらないわけです。首まわりについては首こりのページもあわせてご覧ください。
首の関節の不調が、頭痛として現れることがある
もう一点、頭痛と首の距離の近さについて触れておきます。
徒手療法の専門書には、頭と首のつなぎ目の関節(環椎後頭関節・環軸関節)の機能障害は、頭痛を引き起こす場合が多いと記載されています。また、むち打ち後に慢性的な頭痛が続いた患者を対象に、関節に局所麻酔を用いて痛みの発生源を調べた研究では、頭痛を起こしていた人の約半数で、痛みの出どころが第2〜第3頸椎のあいだの関節だったと報告されています。
さらに同書には、首の関節ごとにどこへ痛みが広がるかのパターンも整理されています。第1〜第2頸椎のあたりは耳の後ろの領域へ、第2〜第4頸椎あたりは背骨沿いや僧帽筋(肩から首にかけての筋肉)の領域へ、といった具合です。痛みを感じている場所と、問題が起きている場所は、必ずしも一致しません。
興味深いのは、むち打ちで首を痛めた人に出る症状の内訳です。同書が引用しているデータでは、頭痛が82%、回転性のめまいが50%、視覚の症状が38%と報告されています。首の問題が、めまいや見えづらさとして現れている——これは、首・内耳・目が一組で働いているという先ほどの話と、きれいに一致します。
つまり、気圧は変えられないが「突き合わせの精度」は変えられる
ここで、神経の話と解剖の話がつながります。
天気が崩れるとき、内耳には普段と違う入力が入ります。これは自分ではどうにもできません。気圧は変えられないからです。
しかし脳は、内耳の情報だけで判断しているわけではありませんでした。首と目からの情報と突き合わせて結論を出しています。ということは——
首から届く情報が正確であるほど、脳は迷いにくくなると考えられます。
逆に、後頭下筋群が縮こまったまま固まっていたり、頭と首のつなぎ目の関節が動きにくくなっていたりすると、そこから届く情報はあいまいになります。センサーの密度が飛び抜けて高い場所だからこそ、ここが乱れたときの影響は小さくありません。内耳からの入力が普段と違う日に、突き合わせる相手の情報も頼りない——この重なりが、症状の出やすさに関わっている可能性があると考えています。
これは「首を整えれば天気痛がなくなる」という話ではありません。そう言い切れる根拠はありませんし、天気の影響を受けること自体は自然なことです。ただ、打つ手が「気圧予報を見て身構える」だけではないとは言えます。
岩槻 整体Re.Lifeでの考え方
整体Re.Lifeでは、天気に伴う不調のご相談に対して、次のように考えています。
1. 首だけでなく、胸まわりから見ていく
後頭下筋群が縮こまる背景には、たいてい背中が丸まって頭が前に出た姿勢があります。首だけをゆるめても、頭を前に引っ張る力が残っていれば戻りやすい。ですので、胸椎や肋骨まわりの動きも含めて確認します。
2. 頭と首のつなぎ目を、丁寧に扱う
この部分はセンサーが密集していて、強く押したりひねったりする場所ではありません。動きの出にくくなっているところを、無理のない範囲で整えていきます。
3. マシンピラティスで、首が働きやすい土台をつくる
首の奥の筋肉は、意識して鍛えるような部位ではありません。むしろ体幹が頭を支えられていれば、首は本来の「測る」仕事に戻れるという考え方をしています。マシンピラティスでは負荷を機械側に預けられるため、首や肩に力みを入れずに体幹を使う練習がしやすくなります。体幹の弱さのページもご参照ください。
緊張型の頭痛や肩こりを伴う場合は頭痛のページ、天気と合わせて全身のだるさが強い場合は自律神経のページもあわせてご覧ください。施術内容と料金は料金ページに掲載しています。
日常生活でできる工夫
首は「温める」だけでなく「動かす」
天気痛の対策としてよく挙がるのが、首や肩を温めることです。これ自体は悪くありません。ただ、センサーとしての首を考えると、温めるだけでなく、実際に動かすことにも意味があります。
おすすめは、大きく回すのではなく小さく丁寧に動かすやり方です。あごを軽く引いて、うなずくようにゆっくり数回。次に、耳を肩に近づけるように左右へゆっくり数回。痛みの手前で止め、反動はつけません。首の奥の細かい筋肉に「動く範囲はここまであるよ」と思い出させるイメージです。
目の使い方を見直す
目と首の奥の筋肉が連動していることは、先ほど確かめたとおりです。画面を見続けて目がほとんど動かない時間が長いと、首の奥も同じ状態で固定されがちになります。
1時間に一度、画面から目を離して遠くを見る、視線だけを上下左右にゆっくり動かす。それだけでも、首の奥の状態は変わります。ついでに窓の外を見れば、空模様の確認にもなります。
天気が崩れる前から、体を動かしておく
台風が接近してからでは、動く気力が出ないという方が多いはずです。だからこそ、崩れる前の日に軽く動いておくほうが現実的です。
ここで一つ補足しておきたいことがあります。徒手療法の専門書には、首の不調について運動や活動性を促す介入は有効である一方、長期間の安静や不活動は、かえって機能障害を長引かせるという趣旨のことが書かれています。つらい日に無理をする必要はありませんが、「天気が悪い日はずっと横になっている」を習慣にしてしまうと、遠回りになりうるということです。
9月の台風シーズンをどう過ごすか
8月末から9月にかけては、台風の接近と秋雨前線が重なり、気圧の上下が続きます。加えて、夏のあいだの冷房・寝不足・食事の乱れが残っている時期でもあります。
この時期は、新しいことを始めるより睡眠時間を確保する、朝に光を浴びる、湯船につかるといった土台の部分を優先するほうが結果的に楽です。記録をつけて「どの程度の気圧変化で、自分にどんな症状が出るか」を把握しておくと、次からは備えやすくなります。
よくある質問
Q耳のマッサージは意味がないということですか?
いいえ、意味がないとは考えていません。耳のまわりの血流を促すことは、それ自体が悪いことではありません。お伝えしたいのは、内耳と首は一組で働いているので、耳だけを対象にすると打ち手が半分になるということです。両方やっていただいて構いません。
Q気圧が下がると頭痛が出るのは、気のせいではないですか?
気のせいと切り捨てられるものではないと考えています。前庭が頭の傾きや加速度を感知する器官であること、その信号が自律神経に関わる脳幹の領域と近い場所で処理されていることは、解剖学的な事実です。ただし「気圧が下がると必ず頭痛が起こる」と証明されているわけでもありません。症状が続く場合は、天気のせいと決めつけず一度医療機関でご相談ください。
Q首を自分でゴキゴキ鳴らすのはよくないですか?
おすすめしていません。首の付け根はセンサーが密集し、太い血管も通っている場所です。勢いをつけてひねる動作は避けてください。動かすなら、痛みの手前まででゆっくりと、が原則です。
Q頭痛薬を飲みながら整体に通っても大丈夫ですか?
お薬の判断は処方元の医師・薬剤師にご確認ください。そのうえで、体の使い方を整えることとお薬を使うことは、対立するものではないと考えています。市販薬を飲む日が月に10日を超えるような場合は、その点も含めて医療機関にご相談ください。
Q雨の日だけでなく、晴れの日でも調子が悪いのですが
天気と関係なく不調が続いている場合は、天気以外の要因を考えたほうがよいかもしれません。睡眠、姿勢、目の使い方、あるいは体の使い方そのものなど、見るべきところは他にもあります。「天気痛」という枠に当てはめすぎないほうが、原因にたどり着きやすいこともあります。
医療機関への相談も大切です
この記事では、内耳・首・目という3つの情報の突き合わせという切り口で、天気に伴う不調を整理しました。ただし頭痛やめまいには、ここで扱っていない背景が関わっていることもあります。
特に、これまでにない激しい頭痛、だんだん強くなる頭痛、発熱や嘔吐・しびれ・ろれつが回らないなどを伴う場合は、体の使い方の話とは切り分けて、すみやかに医療機関を受診してください。当院でも、こうした様子がある方には受診を先にお願いしています。
まとめ
- 気圧を感じ取るのは内耳の前庭。半規管が回転を、耳石器が傾きと直線の加速度を感知している
- ただし前庭からの信号は単独では処理されない。前庭神経核で、視覚・固有感覚(首や関節の位置情報)・運動系の信号と統合される
- 逆に前庭からの指令は首の筋肉にまで下りており、目と頭を協調させる働きも担っている。内耳と首は一本の回路
- 首の奥の後頭下筋群は1gあたり約36個の筋紡錘を持ち、大殿筋(0.7個)のおよそ50倍という密度。首は力を出す場所である以上に「測る」場所
- 頭と首のつなぎ目の関節の不調は頭痛と関わることが多く、むち打ち後の症状ではめまい50%・視覚症状38%という報告もある
- 気圧は変えられないが、突き合わせる相手である首の情報の精度には手を入れる余地がある
- 首は温めるだけでなく小さく動かす。目を動かす時間をつくる。崩れる前に動いておく
岩槻・東岩槻で天気のたびの不調にお困りの方は、「気圧のせいだから仕方ない」と結論づける前に、一度ご自身の首と背中の状態を確認してみてください。整体Re.Lifeでは、首だけを触るのではなく、頭を支える土台から一緒に整えていく形でお手伝いしています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状の診断・治療を保証するものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関へのご相談をおすすめします。